『 最近の記事 』

加茂街道『賀茂川沿いに佇む京町家リノベーション』vol.2

趣あふれる「賀茂川沿いの京町家リノベーション」。
第2回では、設備選びと内装の打ち合わせの様子をお届けします。

前回のお話はこちら→ vol.1

施主様とともに「ぴったり」を探す一日

この日、施主様と吟優舎の女性スタッフが向かったのは、タカラスタンダードのショールーム。 キッチンや洗面台などの実物を見ながら、ぴったりの設備選びをお手伝いします。

現地では、専門スタッフの丁寧な説明を受けながら、実物を見て、触れて、確かめられるのが魅力です。

吟優舎では、女性設計プランナーが同行し、キッチンや洗面台の色合い、寸法、そしてご予算とのバランスまで、細やかに寄り添いながらサポートいたします。

空間全体の調和を一緒に考えていくことで、「こんなふうに暮らしたい」が少しずつ形になっていきます。

施主様は身長が高めの方。

実際にキッチンの前に立ってみて、「もう少し調理台が高い方がいいな」と数センチ高めの設計に。

また、「大きなシンクはいらないから、調理スペースを広くしたい」とのご希望もあり、ひとつひとつを体感しながら、ぴったりの仕様を選んでいきます。
こうした細かなサイズ感を確かめられるのも、ショールームならではの魅力です。

午前の見学を終えて、午後の打ち合わせに備え、いったんランチ休憩へ。

お食事の間にも、暮らしのこと、ご趣味のこと、お好きな色や風合いのこと…。いろいろなお話を伺います。


吟優舎では、ご希望を深く理解することで、お客様の夢を形にしたいと考えています。

今回の施主様は、進化の研究をされている方。
こんなお話をしてくださいました。

「古いものが好きなんです。進化も、急に変わるのではなく、少しずつ、でも確かに形を変えて、元になるものは続いていくんです。 家もそれと同じように、古いものに少しずつ手を入れて残っていくものに惹かれます」

そのお話を伺いながら、私たちも思わずうなずいてしまいました。
住まいもまた、時を重ねながら少しずつ姿を変えていくもの。
このリノベーションも、そんな流れの中にあるのだと、あらためて感じます。

キッチンまわりには、ご研究にまつわるモチーフを取り入れたいというアイデアも。
ピクトグラム風のタイルで、さりげなく遊び心を添える予定です。

午後からは事務所にて、内装の打ち合わせ。
素材のサンプルや図面を広げながら、丁寧に一歩ずつ話を進めていきます。

ふと「今日はお打ち合わせばかりでお疲れではないですか?」とお声がけすると、やさしい笑顔で、こうおっしゃってくださいました。

「いえ、こうしてひとつひとつ選んでいく時間が楽しいんです」
このひと言に、私たちも心がほどけるようでした。


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大切な住まいづくりを、ともに楽しみながら進めていけること。
それこそが、私たちの喜びでもあります。

blogged by 黒川京子


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下京区六条『大正ロマン数寄屋造りの町家リノベーション』vol.7

After:リノベーション後の外観

六条通りにほど近い、100年以上の歴史を持つ京町家。
完成編①と②をお届けしてきましたが、いよいよ最終回をお届けします。

前回までのお話はこちら→ vol.1 vol.2 vol.3 vol.4 vol.5 vol.6

こちらの町家は、初代の持ち主が骨董商だったこともあり、細部にまで意匠が凝らされ、随所に趣のある設えが見られました。

中でも私たち吟優舎のスタッフが特に感銘を受けたのが、「天井」の美しさです。

Before:解体中の2階

天井が語る、時間の記憶

vol.3でも少しご紹介したこちらの天井。

年月を重ねたからこそ醸し出される深い趣がありました。

「この天井は、ぜひ新しい暮らしの中にも残したい」

——その想いを形にし、住まいと自然に調和させています。

After:完成後の2階リビング

重厚感ある天井の下に広がる、2階のリビング。
お部屋の入口にはアーチ開口を設け、空間に柔らかな曲線と趣を添えています。

また、垂れ壁と窓のあいだには、職人技が光る網代天井が。
こちらも丁寧に保存し、当時の面影を今に伝えています。

After:元の天井を生かした網代天井

水屋の記憶を受け継ぐ御手洗

リビングの隣に位置する御手洗は、もともと茶席の準備を行う「水屋」があった場所。

Before:水屋の跡
After:2階御手洗

かつての天井をそのまま残し、空間に流れる“時間の重なり”を静かに感じられる設計となっています。

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Before:解体中
After:リノベーション後

こちらは、かつて床の間だった一角です。
段違い棚や布製のふすまをそのまま活かし、意匠はそのままに、ワークスペースへと生まれ変わりました。

あらかじめデスクの設置を決めることで、コンセントの高さも最適な位置に設定しています。
吟優舎では、家具や家電を事前に施主様にご決定いただき、サイズや形状に合わせて図面へと反映させていきます。

ベッドサイドも、心地よく

After

vol.3でもご紹介した、造作のベッドサイドテーブル。
ベッドの高さにぴったりと合わせているため、使い勝手も抜群です。
暮らしのなかで感じる“ちょうどいい”の積み重ねが、住まいの満足感につながります。

大正ロマンが香る、和洋室へ

Before:解体前の2階座敷
After:部屋をふたつに分け、天然素材のフローリングを設えた和洋室へ

伝統的な意匠に、現代の暮らしやすさを織り交ぜた空間。
まさに「大正ロマン」が香るような、懐かしさと新しさの調和が感じられるお部屋になったのではないでしょうか。

数寄屋造りの京町家、これにて完成です

今回で、こちらの町家リノベーションのご報告は最終回となります。

数寄屋造りの美しい京町家に携わることができ、私たち吟優舎としても大変光栄でした。

最後に、施主様へ心より御礼申し上げます。

この素晴らしい町家の再生に際し、常にあたたかく、丁寧にご対応くださったことに深く感謝しております。
今後とも、末永いご縁を賜りたく存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

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下京区六条『大正ロマン数寄屋造りの町家リノベーション』vol.6

After:リノベーション後の外観

六条通りにほど近い、100年以上の歴史を持つ京町家。

前回は完成編①として、ガレージや玄関まわりをご紹介しました。今回は庭に面したリビングやダイニングキッチンなど、住まいの中心となる部分をご紹介します。

前回までのお話はこちら→ vol.1 vol.2 vol.3 vol.4 vol.5

After:ダイニングキッチン

玄関から入るとすぐに広がるのが、ダイニングキッチン。
以前のキッチンは離れにあり、靴を履いて移動しなければならない不便さがありました。



今回のリノベーションでは、リビングと一体となるダイニングキッチンへと再構成。 家族が自然と集まり、ゆったりとした時間を楽しめる空間へと生まれ変わりました。

キッチンの造作カウンターも、「ただのカウンターではないものを」という施主様のご希望を反映し、なぐり加工を施した台の上にモザイクタイルをあしらい、デザイン性のある仕上がりに。

タイル選びのこだわり

施主様と吟優舎スタッフのLINEグループ会話

タイルは色の組み合わせひとつで、空間の雰囲気が大きく変化します。
施主様に4つのパターンをご提案し、お好みの色味を選んでいただきました。

こうした細やかなやり取りには、施主様と吟優舎のLINEが大いに役立っています。

完成したタイル部分

庭を生かした設計

Before:解体後の庭まわり

今回の設計で最も大切にしたのが、庭まわりの設計です。

After:完成後の庭まわり

町家ならではの美しい奥庭を最大限に生かすため、庭に面した窓から渡り廊下の出入口までを4枚ガラスとし、室内からも緑豊かな景色を存分に楽しめるよう設計しました。

広々としたリビングからは、四季折々の表情を見せる庭が一望でき、心地よい開放感に包まれます。

さらに、もともと庭の一部だった場所には、渡り廊下を設置。
ガラス窓を採用することで、冬の寒さを防ぎながら、年間を通して自然を身近に感じられる空間となりました。

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ご高齢のお母様のお部屋にも工夫を

廊下の奥は、ご高齢のお母様のお部屋です。
庭に面した大きな窓を設けることで、室内からゆっくりとお庭が眺められるようにしました。

吟優舎の町家リノベーションのこだわり

吟優舎のリノベーションでは、庭を設計の中心に据えています。
庭に面した和室(リビング)、浴室、御手洗いを庭に隣接した場所に配置し、どこからでも緑を感じられる住まいを目指しています。

可能な限り庭に面した広い開口を設け、光と風、そして庭の緑をたっぷりと取り込むことで、開放感あふれる心地よい空間を追求しています。

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下京区六条『大正ロマン数寄屋造りの町家リノベーション』 vol.5

Before:リノベーション前の外観

六条通りにほど近い、100年以上の歴史を持つ京町家。 前回は、エントランスに移設したアンティークの灯りや、船底天井を生かした2階部分をご紹介しました。

前回までのお話はこちら→ vol.1vol.2 vol.3 vol.4

今回も、完成した部分をご紹介していきます。
歴史と施主様のこだわりが息づく空間、どうぞご覧ください。

この町家の特徴のひとつが、玄関庭と屋内茶室があったこと。
今回のリノベーションでは、この部分をガレージへと再構成しました。


After:新しく生まれ変わった玄関とガレージ

ガレージの奥に玄関と勝手口を配置。もともと茶室だった空間が、施主様の暮らしに寄り添うガレージへと変わりました。

玄関の壁に見える黒い柱は、もともとの大黒柱。この家の歴史を象徴する大切な存在だからこそ、あえて隠さずにデザインに生かしました。

3つの天井が織りなす玄関

玄関の天井には、異なる3つのデザインが共存しています。

網代天井:薄く削いだ竹を編み込んだ様式。上品な趣を演出。
竿縁天井:伝統的な和風建築に多い、細い角材を使った様式。
元々の天井:家の歴史や風合いを残す工夫。


異なる表情が響き合い、訪れる人を迎え入れます。

猫足スタンプと金魚手洗い

勝手口の土間には、猫好きの施主様がご用意された猫足スタンプが。職人がバランスを考え、ひとつ一つ押しました。

その先には、金魚柄タイルがかわいい手洗いを。ブロックと市販のガーデンパンを組み合わせ、タイルを貼って一体感が出るように工夫しています。
施主様のこだわりが詰まった、とても可愛らしい一角になりました。

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ウッドデッキへと変化した通り庭

玄関から奥へと続く土間「通り庭」は、ウッドデッキにリノベーション。既存の透明素材の屋根を活かし、可動収納式の物干しを設置。
天気に関わらず洗濯物を干すことができるようになり、機能性がぐんと向上しました。

まだまだ見どころ満載

歴史とこだわりが詰まった大正ロマン数寄屋造りの町家。次回はまた別の空間をお届けします。お楽しみに。



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京町家コラム【嫁隠し】

京町家には、今の住宅にはないユニークな工夫がたくさんあります。
今回は、現場からその一例をご紹介します。

こちらは、町家の玄関から奥までを貫く土間、通り庭です。
奥の方の通り庭は、主婦たちが忙しく立ち働くことから「ハシリ」とも呼ばれます。

※解体前の町家の通り庭

通り庭の中ほどに、見つけました。
「嫁隠し」の跡。

嫁隠しとは、一種の衝立(ついたて)のこと。
来客に家の奥を直接見せないようにする工夫のひとつです。

名前の由来は「客から嫁の姿を隠すため」とされていますが、機能はそれだけではありません。

接客や商売をする「表の間」。
そして家族が過ごす「プライベート空間」の境界としての役割
もありました。

酒屋さんやお米屋さんなどの御用聞き、使用人など、さまざまな人が出入りする京町家では、この嫁隠しの前で家人に声をかけ、許可を得てから奥へ入ることができました。

また、家の人にとっては、客に顔を見せる前に身だしなみを整える、ちょっとしたスペースとしても活用されていたようです。

嫁隠しなど珍しい意匠については、こちらの記事もご覧ください。

嫁隠しのある
『大正ロマン数寄屋造りの町家リノベーション』vol.1

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